令和5年度 提言
Our Proposal
概要
新エネルギーの導入促進に関する提言[令和5年度]
一般財団法人新エネルギー財団は、第12回新エネルギー産業会議において、「新エネルギー」の導入促進に関する提言を取りまとめ、政府関係等関係各位に意見具申を行う事とし、今年度は「風力発電」、「廃棄物発電」、「バイオマスエネルギー」、「太陽エネルギー」、「地域エネルギー」、「地熱エネルギー」の6つの分野について提言を行いました。
ここではその概要をご紹介いたします。
※この概要は下記PDFからもご覧頂けます
風力発電システムの導入促進に関する提言の概要
風力委員会
1. カーボンニュートラルとエネルギー安全保障への風力発電の産業力強化
(1)志高い導入目標の設定とロードマップの策定
(a) 2050年のカーボンニュートラル達成を見据えた導入目標の引き上げ
2050年カーボンニュートラルの実現を目指す上で、風力発電は導入拡大が期待される再生可能エネルギー電源の一つであり、中でも洋上風力発電は「再生可能エネルギーの主力電源化に向けた切り札」とされている。諸外国の洋上風力導入量拡大に向けた動き、さらにはエネルギー安全保障の観点を踏まえると、風力発電の導入目標はより高い水準を目指すべきである。
(b) 「運転開始」を基準とした導入目標の明確化
国内サプライヤーの育成・新規参入を促すためには実際に設備が導入される時期と市場規模についての予見性を与えることが重要であり、現在の「案件形成」の規模についての目標だけでなく、「運転開始」を基準とした導入目標を明確にするべきである。
(c) 国内風力発電の切り札「浮体式」の導入目標設定
日本の周辺海域において大きなポテンシャルが見込まれる浮体式洋上風力は、産業育成の観点でも非常に重要な分野であることから、技術開発や案件開発への積極的な投資を引き出すためにも浮体式の導入目標を明確にすべきである。
(d) 上記目標を達成するためのロードマップの策定
上記の導入目標を達成するためには、単なる数値目標だけでなく具体的な実施項目やスケジュールを示すロードマップを国が提示することが重要となる。
(2)案件形成の継続と開発の加速化
(a) 継続的な促進区域指定と公募の実施
参入を検討する企業に市場の規模と継続性の点での予見性を与えるためには、2023年以降毎年1~2GW程度の公募入札を定期的・継続的に実施すること、政府がこれにコミットすることが不可欠である。さらに、導入目標の蓋然性を高めるためには具体的な案件・海域の運転開始時期を明示したスケジュールが提示されることが望ましい。
(b) セントラル方式の拡充・効率化
既に取り組みが進められているセントラル方式について、今後はさらに取り組みを拡充し、調査範囲、および対象案件を広げていくことが望まれる。これにより社会コストを大幅に低減するとともに、公募入札から建設までの期間の短縮と早期の案件形成に繋がるものと期待される。
(3)国内洋上風力サプライチェーンの形成
(a) 洋上風力事業の実情を踏まえた補助金等支援制度の見直し・創設
国内サプライヤーの参入を促すためには設備投資負担の軽減が重要なポイントであることから、補助金、税制優遇措置等の支援制度は引き続き継続して頂きたい。その際、洋上風力事業の事業期間の長さに配慮した柔軟な制度設計をお願いしたい。
(b) 公募入札における国産部品へのインセンティブ強化
国内サプライチェーンの構築にあたって、当初からグローバル展開している海外サプライヤー以上の価格競争力を期待するのは現段階では非常に困難である。裾野の広い洋上風車機器の製造業を育成し、サプライチェーン形成を促すためには、入札公募の評価制度として風車国産化に対するインセンティブをより明示的に与える必要がある。
(c) 国内企業主導による研究開発の支援継続・拡大
浮体式の分野において技術開発で先行し、東南アジアを含めた海外市場を獲得していくためには、技術開発・実証を加速する必要がある。グリーンイノベーション基金、あるいは追加的制度による技術開発・実証の支援を継続・拡大して頂きたい。
2. 風力発電主力電源化のための国内の技術基盤強化に向けて
資源エネルギー庁の「第5次エネルギー基本計画」により、再生可能エネルギー(以下「再エネ」)は大きな転換点を迎えた。この流れを継続しS+3E、安全性(Safety)を前提とした上で、エネルギーの安定供給(Energy Security)、経済効率性の向上(Economic Efficiency)、環境への適合(Environment)の3項目を同時に実現しながら、風力など再エネを主力電源(エネルギー)として増強していくことが重要である。
(1)安全性(Safety)への対応強化
認証制度の柔軟かつ国内産業界の参入に配慮した的確な運用をすることで我が国の環境に適合した風力発電システムおよびコンポーネントの導入を加速するべきである。国内風車メーカーの相次ぐ撤退による技術の空洞化は大きな課題である。その対策として、サプライチェーンの硬直化につながる型式認証制度だけではなく、JIS Q 9001などの認定制度を併用するなどで、優れた技術を有する国内メーカーの参画を促すと共に、自主技術の蓄積を進める産業振興と安全を両立させた政策を要望する。
(2)エネルギーの安定供給(Energy Security)への貢献
風力発電システムおよびコンポーネント技術の国産化を奨励すること、主力電源としての風力発電所を建設する国内発電事業者が風力発電システムおよびコンポーネントを安定的かつ合理的価格で調達できるように、適正な取引環境を維持する政策を提言する。さらに、国家の安全保障の観点から、排他的経済水域や離島などでの風力発電所の立地を促進することを提言する。
(3)経済効率性の向上(Economic Efficiency)/風車
主力電源に値する発電コストを実現のため以下の風車技術開発の支援政策を提言する。
- (a) 風車の性能アップ/ロータの拡大など
- (b) 発電量増加に資する技術/ハブ高の増加
- (c) ダウンタイムの削減/故障(停止)時間の削減
- (d) ダウンタイムの削減/メンテナンス時間の短縮
- (e) 風車の性能アップ/発電効率の向上
- (f) 風車の性能アップ/ブレード効率の改良
- (g) 風況の改善/好風況地の再活用
- (h) 生涯発電量の増加/長寿命化
(4)経済効率性の向上(Economic Efficiency)/BOP
主力電源に値する発電コストを実現のため以下のBOP関連技術開発の支援政策を提言する。
- (a) 輸送・据付工法に関する技術開発
- (b) 洋上風力の事業に向けた作業船群の整備
- (c) 洋上風力の拠点港湾の整備
(5)環境への適合(Environment)
資本費の低減、発電量の増加などにより、kWh当たりのCO2の排出量を低減させ、地球温暖化の抑止につながる政策を提言する。風力発電システムによる環境影響として、騒音、景観、社会受容性などに配慮した技術開発を推進する。
3. 風力発電の導入拡大に向けて(次世代電力ネットワークの整備等)
(1)次世代電力ネットワークの早期整備
カーボンニュートラルをみすえた風力発電の導入拡大に向け、連系線や地内系統の整備計画の早期策定と早期具体化が必要である。また、風力発電の導入拡大にあたっては、海外事例を参考にした洋上変電所までの一般送配電事業者による整備(セントラル方式)等や複数ウィンドファーム間で共有して活用する変電所・送電網の整備などの検討も必要である。
(2)既存系統の最大限の活用(日本版コネクト&マネージの深化)
既存系統の最大限の活用を行う「日本版コネクト&マネージ」は、継続して検証・改善を図り、流通設備の利用効率の向上を図るとともに、運用容量拡大の検討・改善も継続して行うことが重要である。
(3)再エネ電源の出力制御の高度化と混雑管理方式の変更について
再エネ電源の出力制御(抑制)は需給要因、系統要因、調整力要因の3つが見込まれており、それぞれの制御量の検証と低減対策を継続して実施するとともに、事業予見可能性を高めていくことが重要である。また、それでも出力制御量が抑制できない場合には、補填することも含め、別の対策検討も必要である。また、将来の同時市場の導入や混雑管理方式の変更については、早期に見通しを明示し、事業者への不安や過度な負担を発生させないようにすることが必要である。
(4)日本全国規模での再エネの最大限有効活用に向けた系統運用
地域間連系線の利用を前提に、広域的な需給調整市場の運用が進められるが、定期的な運用状況の検証と必要な改善が求められる。また、将来的には複数の地域を統括して系統整備・運用等をするような体制の構築が有効である。また、再エネの調整力を広域的に活用することについても検討していく必要がある。
(5)風力の有効活用に向けたグリッドコードの検討
グリッドコードの検討においては、カーボンニュートラルに向けた再エネの大量導入を前提として、先見性、包括性および技術中立性をふまえることが重要であり、諸外国の規定を参考にしつつ、系統が求める技術的要件の早期明確化と、これをふまえた接続する設備側への要求事項(グリッドコード)の明確化、ならびに当該機能の具備・使用に関する運用の明確化やインセンティブ付与検討、市場制度との整合性、系統側の運用の明確化を図り、風力や再エネに対する過度な負担を発生させないという視点も重要である。この際、風力が有する機能の有効活用や、グリッドコード導入後の検証とフィードバックも重要である。
4. 風力発電事業環境の整備に向けて(健全な競争が促される環境整備)
(1)インバランスリスクの予見性向上と再エネアグリビジネス活性化
FIP制度下ではインバランス特例は設けられていないため、風力発電事業者も計画値同時同量義務を負うことになるが、再エネ電源のバランシング実務を担う再エネアグリゲーターの市場参画は未だ限定的である。旧一電以外にも多数のアグリゲーターが活躍し、再エネ事業者が複数の選択肢を確保できる健全な市場形成を図る上でも、インバランスリスクを低減し、またリスク予見性を高めて再エネアグリゲーターの市場参画を促進する環境整備が不可欠である。
上記課題に対応する措置として、風力事業におけるインバランスコストの実態把握・分析、発電出力予測精度向上に向けた気象データ整備、各種市場設計議論の早期方針確定、既設FIT案件のFIPへの移行促進を提言する。
(2)非化石証書の適正な需給バランスを取る制度措置
非FIT非化石証書からの収入は、高度化法に基づく非化石電力取得義務量や、高度化法義務達成市場の制度設計に依存。FIP案件の収入予見性の観点から、非FIT化石証書が売れ残らない安定した制度設計が必要である。
また制度が複雑・短期的・不安定であることに起因し、売買の需給バランスが崩れ、一気に価格が動くような状況は、非化石証書を購入する小売事業者や需要家側の安定的な企業経営の観点でも望ましくないため、長期安定的な制度設計を要望する。
さらに、非化石証書の価値や需要家ニーズは制度設計に大きく依存することから、PPA締結の支障となり得る制度的制約、例えばバーチャルPPA締結が可能となる運転開始年度の制約等については躊躇なく改善を図るとともに、GX-ETSなど将来のカーボンプライシングの制度設計や既存の非化石証書との整合を早急に示し、需要家・小売事業者・発電事業者が予見性を以て長期PPAを締結できる環境整備を望む。
(3)事故発生時の健全性確認プロセス合理化
風力発電所で重大事故が発生した場合には、経済産業省産業構造審議会 保安・消費生活用製品安全分科会電力安全小委員会電気設備自然災害等対策ワーキンググループ(以下、対策WGという)で審議が行われるが、審議期間中、保安停止した風車のダウンタイムが長期化することによって事業性に大きな影響を及ぼしている。
健全な風車について早期の運転再開を促すことはエネルギーの安定供給並びに再エネ比率向上にも資することから、例えば対策WGの開催頻度増加による審議迅速化を図るなど、ダウンタイム最小化にも配慮した対策WG運営を望む。
廃棄物発電システムの導入促進に関する提言の概要
廃棄物発電委員会
提言1:再給電方式(一定の順序)における廃棄物発電の位置付けの明確化と周知徹底を
既存の送電線等の送電設備の容量を最大限活用するために、ノンファーム型接続の取り組みが推進されている。その前提となる再給電方式(一定の順序)における出力制御順の位置付けは一般送配電事業者と協議することにより判断されるが、一般廃棄物処理施設において、その協議結果に差が生じている。 このことを踏まえ、ノンファーム型接続における一般廃棄物処理に伴う廃棄物発電の出力制御順における位置付けについて、次の通り提言する。
- 再給電方式(一定の順序)における廃棄物発電の位置付けの明確化を
- 一般廃棄物処理施設を設置又は管理する地方自治体による申請については、一般送配電事業者との協議によらず「ノンファーム型接続の地域資源バイオマス電源(出力制御困難なもの)」として確実に認定されるように明確化すること。
- 関係機関に対する更なる周知徹底を
- 再給電方式(一定の順序)において廃棄物発電が「ノンファーム型接続の地域資源バイオマス電源(出力制御困難なもの)」に位置付けられることを、特に地方自治体及び一般送配電事業者等の関係機関への理解が促進されるよう、更なる周知徹底すること。
提言2:廃棄物発電施設における設備利用率向上と地域の廃棄物の混合処理推進を
廃棄物発電施設は設備利用率が70%程度と低く、十分に活用されていない。その原因は、処理される一般廃棄物の量が設計能力に対して少ないこと、及び「廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下、廃棄物処理法という)」により設備能力の活用を制限されることにある。この余力を活用することにより、総発電電力量を約 4 割増大させることが可能であり、年間 221 万 t の CO2削減に相当する。 この状況を踏まえて、廃棄物の搬入及び発電に余力のある廃棄物発電施設の能力を十分に発揮させ、廃棄物発電電力量の上積みを図るため、次の通り提言する。
- 処理量規制の弾力的運用を
- ボイラを最大連続蒸発量で管理する廃棄物発電施設においては、廃棄物処理法に基づく処理量の基準を弾力的に運用する若しくは処理能力変更手続きを簡素化する等により、廃棄物発電施設の余力の活用を推進すること。
- 他のインフラの排出物や未利用廃棄物系バイオマスの活用を
- 地域のエネルギーセンターとして、地域特性に応じて、他のインフラ(下水処理施設、し尿処理施設等)の排出物の処理及び農作物非食用部や林地残材等の廃棄物系バイオマスの有効利用に廃棄物発電施設の余力の活用を推進すること。
- 広域処理・施設集約化の継続的な推進を
- 都道府県の枠を超えた地域ブロックの協議会を活用し、熱回収設備の充実した大規模廃棄物発電施設に処理を集約するための協議を行うなど、引き続き広域処理・施設集約化を推進し、施設の余力活用とともに熱利用を促進すること。
提言3:余剰電力や余熱の更なる有効利用方策への支援を
廃棄物発電施設は地域活用電源であるため、地域の需要に合わせたエネルギーの有効利用が必要である。また、廃棄物発電施設は自然災害によって生じる災害廃棄物の処理や防災拠点としての機能にも期待が大きい。 地域での様々な期待に応えるための方策について、次の通り提言する。
- 廃棄物処理施設をエネルギーセンターとして位置付けた都市計画の推進を
- 発電又は余熱利用が可能な廃棄物処理施設をエネルギーセンターとして位置付けた計画を実現させるためには都市計画の中で明確に位置付ける必要がある。都市計画において廃棄物処理施設をエネルギーセンターとして位置付けるよう政策誘導願うとともにそのような施設を建設する場合優遇支援を行うこと。
- 災害時の廃棄物発電施設の弾力的運用の推進を
- 災害時に施設を長期間自立運転して地域の人々の生活を支えるために、環境規制値を国の基準まで緩めて運転することが可能になるよう国として通知を出すなどの後押しをすること。
- 災害時の近隣の災害廃棄物の処理に協力するために、提言2に挙げた処理量規制の弾力的運用、処理量基準の軽微変更の手続きの簡素化を行うこと。
提言4:廃棄物発電における適切な FIT/FIP 制度利用申請の確実な認定を
一般廃棄物処理施設の新たな施設建設にあたり、地方自治体が FIP 制度の利用を申請したが、認定されない事例が生じている。実態として新設されているものの、既設と同一場所に建て替えることから他電源のリプレース要件を流用して判断されたものと見られるが、施設整備の実情とは乖離しており、廃棄物発電に適用することが適切であるとは言い難い。 このことを踏まえ、予見性を持って事業を進められるよう、次の通り提言する。
- 一般廃棄物処理施設整備の事業計画に即した FIT/FIP 申請の認定を
- FIT/FIP 制度利用申請においては、一般廃棄物処理施設整備の事業計画内容を多角的な視点から総合的に確認の上で、実情に即した認定が行われること。
バイオマスエネルギーの利活用に関する提言の概要
バイオマス委員会
新エネルギー産業会議バイオマス委員会では、バイオマスエネルギーの利活用において、木質バイオマス資源の有効利用、湿潤系バイオマス資源のバイオガス化推進等の観点より「バイオマスエネルギーの利活用に関する提言」をまとめ、以下の通り提言する。
提言1.木材及び木質バイオマスの長期的な安定供給のための体制整備に向けた提言
森林資源の活用にあたっては持続可能な木材利用を前提とし、森林資源を価値の高い製材等へ振り向け、それ以外の林地残材等を燃料として有効利用することが基本と考えられる。木材や木質バイオマスを効率的に利用するためには、持続可能な森林管理や関連法制度の整備、新たな技術開発も必要であり、その点を踏まえ、次の2点を提言する。
- 1-1 樹木採取権制度を活用するサプライチェーン構築に関する提言
林野庁は、樹木採取権の設定について、民間事業者が対応しやすいように権利期間や、規模の基本形を取りまとめている。その基本形を超える規模の樹木採取権に対するニーズや規模を検討するために、マーケットサウンディングを実施した。その結果、事業の実施体制のうち、特に川上事業者との連携が難しいという意見があった。 都道府県レベルでも本事業の育成を進めており、成功事例を広く情報公開するためにも、複数の川上事業者とのサプライチェーンの構築を試みる民間事業者に対する支援を提言する。
- 1-2 燃料材としての早生樹の導入及び普及に向けて、早生樹の定義を明確にする提言
早生樹は、木質バイオマス燃料としての利用が期待されている。農水省は森林整備の観点で注目しており、経産省はバイオマス燃料の安定的・効率的な供給・利用システムの構築に向けた活用に注目している。その一方で、具体的に森林整備計画を進める上では、早生樹に関する様々なデータは不足しており、それらを蓄積することが急務である。エネルギー利用や用材利用など利用目的が混在しており、データも少ないので、これらについて議論された結果や試験データ等を基に、早生樹の定義を明確にすることを提言する。
提言2.FIT後を見据えた木質バイオマスエネルギーの持続的利用に向けた提言
バイオマス発電事業は、①エネルギー自給率の向上、②災害時等におけるレジリエンスの向上、③国内の森林整備・林業活性化等の役割、④地域の経済・雇用への波及効果が大きい等、多様な価値を有する事業である。 国内のバイオマス発電事業では、大型のボイラータービン設備から小型のガス化発電設備まで、様々な機種が採用されている。それぞれの発電所を調査した結果、バイオマス燃料の調達と、小型ガス化発電設備の課題から、次の2点を提言する。
- 2-1 バイオマス燃料の調達に関する提言
国内のバイオマス発電に利用される燃料は、基本的に長期調達契約が結ばれているが、3か月程度の短期調達契約もあり、これら契約後の見通しが不透明な発電所では、バイオマス燃料の調達が課題となっている。 現地視察の結果では、地域によって出力抑制を受ける発電所もあり、排ガスからCO2を回収する先進的な取り組みを進めている発電所もあるので、燃料調達の課題を解決するためにも、これらのような発電所に対して、経産省が定めるFITとは異なる新たなインセンティブの構築を提言する。
- 2-2 小型ガス化発電の安定稼働に要する知見の蓄積と、熱利用の推進に関する提言
ガス化発電設備は、発電と同時に熱エネルギーを排出することが特徴である。小型のガス化発電設備は、地産地消の発電所として社会実装が進みつつあるが、ガス化設備を継続的にかつ安定的に連続運転することは非常に難しいと言われている。また、ガス化発電設備は海外製の事例が多く、設備においてトラブルが生じた際、その対応を速やかにするために、海調品を自製するなどの工夫がなされている事例もある。 工夫を施しながら運転がなされている小型ガス化発電設備については、発電事業者自らがオペレーション&メンテナンスの状況を公開するプラットフォームを設けること、ガス化発電設備より排出される熱エネルギーを有効利用している施設に対しては、事業性をより確実なものにするため、熱エネルギー利用に対する新たなインセンティブの構築を提言する。
提言3.バイオガス利用の加速化に向けた提言
未利用量が多い下水汚泥や家畜排せつ物、食品廃棄物等の湿潤系バイオマスから高効率にエネルギーを得られるバイオガスの利活用は、地域内での需給バランスを考慮した資源・エネルギーの地産地消による、地域活性化や災害時のレジリエンス強化に資することが期待されている。 昨今のバイオガス利用を取り巻く環境を踏まえて、今後のバイオガス利用を促進するために、次の4点を提言する。
- 3-1 バイオガス利用促進に関するガイドライン作成や支援に関する提言
バイオガス発電は、ON と OFF の切り替えが容易なガスエンジン方式かつ燃料のバイオガスを貯留できることから、FIP 制度と相性が良いと考えられる。バイオガス発電を FIP 制度に適用させた場合のモデル事例の公開等を通したガイドライン作成が必要である。 また、バイオガス利用促進に関する補助事業は複数あるが、十分に利用されていない事業も存在する。FIT 制度の知名度を利用して廃熱や農業分野での CO2利用を促進させるためにも、FIT 制度と併用可能な支援やガイドラインの作成の検討をすべきである。
- 3-2 湿潤系バイオマスのメタン発酵残渣の肥料利用を促進する提言
世界的な食料需要の増加と外交・為替リスクから肥料価格が高騰している現状で、消化液の液肥利用は有機質肥料を通じた地域農業振興につながり、廃棄物施設建設時に住民に受け入れられやすくなった事例がある。特に、都府県の小規模農地における消化液の肥料利活用促進を進めるために、より効果的な補助金の再検討及び肥料成分濃縮に関する技術開発補助を提言する。
- 3-3 畜産廃棄物向けの優良なバイオガス設備や制度の公表及び表彰に関する提言
バイオガス利用促進のために、特にガイドラインの整備が不十分な家畜排せつ物等の畜産廃棄物を原料とするものに対して、優良なバイオガス発生設備やメーカーを、導入する事業者にとって分かりやすくするための表彰制度の設置、バイオガス利用機器の納入・稼働状況の公表、バイオガス設備選定のガイドラインの作成が必要であり、官民の連携が求められる。
- 3-4 混合処理施設規制緩和の提言
各種バイオマスの混合処理では、廃棄物処理法の手続きのみでなく、関連する多くの法規制への対応が必要となる。また、自治体によりその許認可申請の判断基準にばらつきがあるため、稼働までのスケジュール長期化や計画頓挫の事例が報告されている。そこで、混合処理を行う下水処理施設、一般廃棄物処理施設、産業廃棄物処理施設における自治体での許認可手続きを一元化、共通部分を省略するための制度設計、許認可取得判断基準の明確化を行うことを目的とした、省庁連携による自治体のためのガイドライン策定を要望する。
太陽エネルギーの普及促進に関する提言の概要
太陽エネルギー委員会
提言1.高圧・特別高圧地上設置太陽光発電所の普及拡大
現状、屋根置き自家消費や低圧地上設置の太陽光発電所は着実に伸びているが、高圧・特別高圧地上設置が停滞している。要因としては、適地の減少、系統連系や開発許認可の長期化が挙げられる。 屋根置き自家消費や低圧地上設置だけでは、政府目標の2030年再エネ比率36~38%(内、太陽光14~16%)の達成は困難であるため、ポジティブゾーニングの設定や地域脱炭素化の推進について、以下の提言を行う。
- 新たな太陽光発電所の適地確保に向けたポジティブゾーニングの設定については、産官学が一体となったタスクフォースを形成して、民間企業からのアイデアを結集し、地元にもメリットが享受できる仕組みを構築するなど、課題解決に向けた取組みを行うことを要望する。
- 地域脱炭素化の推進においては、発電エリアの再エネ比率の向上を進める対応策として、発電エリアの再エネ比率目標を設定し、優先的に供給する仕組みを構築することを要望する。
提言2.新たな太陽光関連ビジネスの促進
多様で新たなビジネスモデルの実現を通じてFIP制度への移行を促進し、社会コスト低減を実現するための環境整備として、以下の提言を行う。
- FITからFIPへの移行促進策の導入については、移行インセンティブとしてのバランシングコスト交付金の増額や、FIP移行が進んでいない状況についての調査分析、オンライン制御化への補助制度創設や移行要件緩和の制度措置を要望する。
- 発電所併設蓄電池の収益機会拡大については、再エネ電源併設蓄電池についても容量市場への参画等、マルチユースでの活用がなされるような制度整備を要望する。
- 系統用蓄電池の導入拡大については、脱炭素電源オークションの審査において適正な事業規律が確保されるよう要望する。
- 非化石価値の予見性向上については、制度が複雑・短期的・不安定であることに起因した価格変動を回避するため、GX-ETSなど将来のカーボンプライシングの制度設計や既存の非化石証書との整合を早急に示し、需要家・小売事業者・発電事業者が予見性を以て長期PPAを締結できる環境整備を要望する。
提言3.住宅用PVの普及拡大
住宅用PVの普及拡大に向けては、新築および既築への導入拡大と、自家消費型のモデルの円滑な導入拡大に向けた条件整備として、以下の提言を行う。
- 地方自治体の先行事例の全国展開に向けては、様々な形で工夫を凝らした緩やかなPVの設置義務化制度の導入事例が出現してきているため、このような動きが全国の自治体に拡大していくようなフォローを要望する。
- 第三者保有モデル普及へのサポートとして、住宅所有者への周知に向けたPV業界での活動に加えて、認知度向上に向けた行政からのフォローを要望する。
- 太陽光、蓄電池併用モデルの普及に向けては、太陽電池モジュールと蓄電池の両方の電力をコントロールするハイブリット型を標準モデルとした調達価格の算定、及びV2Hシステム等も視野に入れた標準モデルの検討などの標準仕様の再整理を要望する。
- 卒FIT邸におけるパワーコンディショナ交換時のFIT申請のルール見直しについては、HB型に切り替え自家消費型モデルにすることを推進するための運用ルールの見直しを要望する。
提言4.太陽電池パネルのサーキュラーエコノミーの推進
長期稼働を進める中で、使用済み太陽光パネルのリユース・リサイクルを進め、リサイクルされた部材の有効活用することなど「サーキュラーエコノミー」の実現を、全てのステークホルダーで検討を進めることが肝要である。この状況を踏まえて、以下の提言を行う。
- リユースの促進に向けては、災害等での対応、品質補償、コスト、制度的対応(FIT等での使用不可等)などの制度の見直し、第三者機関等による試験方法や判断基準の考え方の指針の作成を要望する。また、政府、自治体設備へのリユース品の優先的な活用が望まれる。
- 適正処理・リサイクルの推進に向けては、設備や発電事業に係る情報管理において、既存、新設に区分しつつ、発電事業者の負担とならないような仕組みの検討を要望する。また、製造者の廃業・倒産、不明などのものに関する含有物質情報のデータベースへの登録については、政府の支援を期待する。
- 廃棄量の平準化に向けては、公的な仕組みでリサイクルに回る量をコントロールする制度、およびリサイクル事業者に使用済太陽光パネルが安定的に供給されるための仕組みが必要である。
- 放置問題への対応については、建物の滅失登記に沿うよう、FITの廃止届の運用ルールの見直しを要望する。
- リサイクルコストの低減とリサイクル部材の活用に向けては、再生産技術の開発などへの支援を要望する。
地域新エネルギーの普及促進に関する提言の概要
地域エネルギー委員会
提言1.再生可能エネルギーの導入拡大・利用促進の動きにおける優良プロジェクト選定基準に対する提言
脱炭素先行地域の選定など、国が支援する地域における再エネの拡大において、地域社会特有の課題解決や、地域の気候や電力系統の特性等に配慮したプロジェクトを高く評価することで、脱炭素先行地域のドミノによって地域固有の課題解決が進むよう方針を明確に打ち出し、モデルプロジェクトを評価していただきたい。
【具体的な施策の例】
- 脱炭素化に向けた再エネ事業において、地域固有の課題/地域共通の課題に対応できるプロジェクトを高く評価する
- 地域固有の課題に対応するプロジェクトの例:
- 住民の移動や物流に課題のある地域に対して、再エネをシェアリングするモビリティインフラ整備を支援するプロジェクト
- 地域の特産物を、再エネを活用してブランディングするプロジェクト
- 地域共通の課題に対応するプロジェクトの例:
- ソーラーシェアリングによる農業・農地への第三者(従来の農業従事者以外の人)誘導を実現できるプロジェクト
- バイオマス発電の推進により、林業活性化や廃棄物活用によるサーキュラーエコノミーの大規模化・効率化を推進するプロジェクト
- ロボットやパーソナルモビリティを再エネ電源で活用するプロジェクト
- 環境やSDGs教育と連携して再エネ設備を設置するプロジェクト
- 地域固有の課題に対応するプロジェクトの例:
- 再エネによるまちづくりを地域の新たなブランドにした企業誘致プロジェクトの推進に向け、自治体職員の方への関連知識付与などの人的な支援ならびに経済的な支援を実施する
- 再エネポテンシャルや地域資源を有効活用した事業の育成を重要視し、地産地消にかかわらず、ビジネス成立策を幅広く検討し、必要に応じて国や自治体主導でビジネスをけん引する
- 支援するプロジェクトの評価にあたり、建設プロジェクトやエリアにおける脱炭素効果やその実現性だけでなく、運用におけるシステムを事業性や普及性などから評価し、水平展開する
提言2.地域課題解決に向けたデジタル化推進の動きに連携する再生可能エネルギーを活用した地域エネルギー事業を推進する視点からの提言
デジタル化(DX)による地域課題の解決が推進されている状況において、再エネ事業の拡大に必要なマネジメントの高度化(他サービスとの連携)が連携して促進されるよう、デジタル田園都市国家構想実現に向けたプログラムなどにおいて、再エネ事業と連携したプロジェクトや事業者への支援をお願いしたい。
【具体的な施策の例】
- デジタル田園都市を目指す交付金事業などにおいて、再エネの拡大を目的としたデータ連携基盤や再エネ発電所の見守り、エネルギーデータの活用を計画する自治体の提案やプロジェクトを優先的に支援する事業を高く評価する
- デジタル化による地域課題解決のうち、比較的ビジネス成立性の高い“移動・交通”をターゲットとしたプロジェクトにおいて、再エネ導入事業者と連携したプロジェクト、事業者を高く評価する
- 地域防災での住民避難などの課題解決を目的に、再エネ事業者と気象データや被災状況、施設の運営状況などを連携し、日常でのデータ活用だけでなく、被災時のエネルギーマネジメント(地域のエネルギー供給起点となるマルチステーションの構築など)と連携できるプロジェクトを支援するプログラムを新設し、推進する
- 以下に示す検討プロセスを自治体が主導できるよう方針を打ち出し、必要な支援を検討する
- 各自治体が取り組むべき地域課題を明確にする。
- サービスを実現するために必要なデータを明確にする。
- 地域のエネルギー事業者(再エネ推進事業者)に状況を共有し、提供できるデータ、新たなサービス事業に関する可能性を検討する。
- 構築すべきデータ連携PFについてエネルギー事業者との連携を検討する。
- 誰もが利用できるようにデータ形式の一元化や名寄せなどの利用環境を整備する。
- データ活用の市民格差をなくすためのキャンペーンやプロモーション実施を推進し、その際には、再エネ拡大のプロモーションと一体的に推進する
- 例:デジタル×脱炭素(DX×GX)大使の任命、多世代交流拠点での講座支援など
- 自治体職員などの関係者に対する前提知識を付与し、DXリテラシー向上のための教育プログラムを推進する
地熱エネルギーの開発・利用推進に関する提言の概要
地熱エネルギー委員会
提言1.新規地熱開発への支援
2030年エネルギーミックス、及び2050年カーボンニュートラル達成に向けて、再生可能エネルギーによる発電電力量の増加が必要であり、そのためには新規地熱発電所の開発を進めることが必要である。今後は地熱資源のポテンシャルが高い自然公園内等での開発が増加していくものと思われる。しかし、これらの地点はアクセス困難な山間部に位置する場合が多く、様々な規制が存在するため、開発コストの増大や開発期間の長期化などの現状がある。この状況を踏まえ以下の提言を行う。
- (1) FIP制度の基準価格について、当初の設定された価格の変更が予定される状況となった。現状の開発案件は、現状の基準価格を前提としている調査が殆どであり、基準価格が引き下げられた場合、案件によっては開発が困難になる可能性が高くなる。開発に長期間のリードタイムを必要とする地熱発電の特徴を考慮の上、事業の予見性が損なわれてしまわないよう、基準価格の設定に配慮されることを要望する。
- (2) 地熱開発は他の再エネ電源と比較すると、リードタイムが長く、また坑井掘削など膨大な調査費用が必要であることなどから、新規開発が進んでいない状況であり、更なる支援策が必要である。この状況から次の支援・施策を要望する。
- ① JOGMEC資源量調査事業費補助金交付事業の事業年数や年度跨ぎに関する柔軟な対応
- ② JOGMEC先導的資源量調査の民間事業者の後利用に向けた「情報公開」などの早期制度化
- ③ 自治体及び温泉事業者から理解を得るための国又はJOGMECによる支援
- ④ 温泉の保護や秩序ある地熱開発促進を目的とした法的手当て
- ⑤ 坑井掘削の人材確保や資機材不足を補うような支援、等
- (3) 地熱発電は発電出力を確定させるため長い期間の調査が必要となるため,現行制度では系統接続に係る不確実性のため投資判断が難しい状況がある。これから次の支援・優遇措置を要望する。
- ① 地域偏在性の高い地熱発電の系統接続に係る優先枠の確保
- ② 資源量確定に時間を要する地熱発電の特性を考慮した接続契約に係る優遇措置
- ③ 山間地を含む地熱開発促進に係る系統設備工事に係る支援、等
- (4) 地熱調査および開発における坑井掘削調査では、坑井掘削基地造成で保安林内の作業許可などを受けなければならない場合が多い。この状況で次のような対応を要望する。
- ① 作業許可について、許可期間、変更行為区域の面積、切土・盛土の高さなどの条件の緩和や柔軟かつ合理的な対応
- ② 保護林について、地熱開発有望地域が保護林内に多く存在しており、一律に貸付を禁止するのではない柔軟かつ合理的な運用、等
提言2.既設地熱発電所への支援
前述のように発電電力量増加が必要であり、このためには新規地熱発電所の開発に加えて既設地熱発電所の発電電力量を維持・増加させることも必要である。しかし、国内の地熱発電所における発電電力量は1997年をピークに減少している。その背景として、既設地熱発電所の蒸気生産量や還元能力の低下などにより設備容量に対する発電电力量(設備利用率)が低下していることが一つの要因として挙げられる。また、老朽化、旧式化に伴い発電設備の最適化が図れていない状況が挙げられる。この状況を踏まえて以下の提言を行う。
- (1) 蒸気生産量や還元能力の低下に対しては、生産井、還元井等補充井の掘削、および既存井のサイドトラック等改修工事が、効果的かつ即効性のある対策である。しかし、昨今の掘削費の高騰により補充井掘削等の投資採算性が低下していること、また、操業継続に伴う地下の状況変化等による地下資源リスクもあることから、積極的な対策実施が難しい状況となっている。このため、蒸気生産量および還元能力の回復・増大に資する補充井掘削、および既存井の改修工事に対する支援を要望する。
- (2) 老朽化、旧式化に対しては、リプレースFITに伴う設備最適化が進められているが、いまだ全体設備の更新時期に至っていない地熱発電所においては実施が難しく、設備最適化ができていない状況である。したがって、発電設備の最適化などを促進する支援・補助制度の創設を要望する。
提言3.技術開発の推進
これまでJOGMECやNEDOを中心として、複数の地熱技術開発事業が進められており、探査技術、貯留層管理、エネルギー高度利用化の面で様々な新技術が開発されている。特にNEDOで研究開発が行われている超臨界地熱発電は、国内の地熱発電容量を現在の数十倍以上にできるポテンシャルがあるとされている。
これらの技術開発は、民間事業者単独では経済的に困難であり、超臨界地熱発電を含む革新的地熱発電の技術開発(EGS)等、地熱発電の導入拡大に係る技術開発について、事業者のニーズをくみながら引き続きJOGMECおよびNEDOの主導による推進を要望する。
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